セルフケア行動の5段階の変化ステージ
セルフケア行動の5段階の変化ステージ(Prochaska-石井)(1)
皆さんが今までに受けた講義を思い出してください。
どんな講義が面白くて、どんな講義が眠たかったですか?
多分面白かった講義は皆さんがまさに知りたかったことを教えてくれた講義だったのでしょう?
逆にいくら世間では名講義と呼ばれている講義でも皆さんが興味の無いことを延々と話されても眠いだけでしょう。
このように、まず患者教育を行うとき、皆さんが最初に気にすべき点これから療養指導士の皆さんが行おうとする教育介入が、患者さんのニードに合っているかどうかということなのです。
教える側の提供物が患者さんおのニードにあっている時に初めて指導者は指導者として、学習者は学習者として成り立つからです。
例えば、自分は糖尿病だと思っていない患者さんに食事療法を教えても、患者さんは眠いだけです。
場合によっては「くだらん!」と帰ってしまうことでしょう。
相手のニードに合わせた指導をするためには、相手の気持ちを知る必要があります。
学習する気持ちのない患者、つまり患者さんのニードが指導者の提供するものと異なっている患者には療養指導以前のアプローチが必要なのです。
「患者は今どこにいて、何を考えているのか」を知ることは言いかえれば、患者が病気の治療のために、どのように、どこまで行動を変えようとしているか、また変えているかを知ることです。
セルフケア行動の5段階の変化ステージ(Prochaska-石井)(2)
患者さんが糖尿病という病気に対してどの程度行動を起こしているかは、Prochaska-石井のセルフケア行動の5段階の変化ス99ジが参考になります。
Prochaska-石井のセルフケア行動の5段階の変化ステージ | ||
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Stage | Comment | 和名 |
Precontemplation | 「考えても、思ってもいない」 | 前熟考期 |
Contemplation | 「やったほうがいいかな?」 | 熟考期 |
Preparation | まだ十分ではないけど、「ちょっとだけやってみた」 | 準備期 |
Action | 「いよいよやりだした。」-毎日が止めたい誘惑との戦い | 行動期 |
Maintain | 6ヶ月以上行動が持続。でもやっぱり誘惑との戦い | 維持期 |
Relapse | 「折角続いてたのに、、」振り出しへ戻る。 | 再発 |
このモデルはProchaskaが禁煙行動の際に実証された心理的モデルを石井が糖尿病にあてはめたものです。
禁煙の場合に比べ、目標やそれに向かう行動が単純ではないため、患者の行動目標を食事順守、運動、服薬、インスリン療法など、個別に適用する必要があります。
このモデルは患者の行動を叙述的にまとめたKubler-Rossのモデルとは別なものであり、患者の心の軌跡に実際的な考えをまとめ、対策を講じるために利用することができます。
行動を完成するまでに何度かの逸脱や再発を経過しながら、階段状に昇っていく螺旋のようなモデルです。
セルフケア行動の5段階の変化ステージ(Prochaska-石井)(3)
Prochaskaのモデルをもう少し具体的に糖尿病に当てはめてみましょう。
①前熟考期 |
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この段階では大抵は病院へ来ません。 自分の意志で病院には来ないので、他疾患で病院に来たついでに発見された、会社の健診で発見された、家族に無理矢理連れてこられたなどの形でお会いすることになります。 (「前熟考期」というから少しは考えているのかと言うと、そうではありません。「考えてみたこともない」、「全く知らない」というのがあたってます。。)
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②熟考期 |
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熟考かどうかは別として、気にしている状態です。
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③準備期 |
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患者さんなりに行動を起こしています。が、まだ十分ではありません。
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④行動期 |
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適切な行動を始めていますが、いつまで続くか保証できません。
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⑤維持期 |
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適切な行動が一定期間続いています。 |
セルフケア行動の5段階の変化ステージ(Prochaska-石井)(4)
もう少し具体的に各場面での対応を述べると、以下のようになります。
- : すべきではない、あるいは好ましくない方法
- : 行なってもよい方法
- 治療に取り組むのは当然と思うな
- 感情を無視して適応を急ぐな
- 糖尿病に関する感情を表現させる場を提供する
- 患者の考え方を無視するな
- 信念・態度をゆっくり聴いてみるのがよい。
- 逃避を指摘して問題への直面化をあせるな
- アンビバレンス(両面価値:治したいのに治せない、など同時に一つの事物・行動に対し互いに矛盾する感情・価値を持つこと)を見つけて,警告,批判,無視をしない。
- アンビバレンスを明確にする(治療行動をとると何が利益で何が不利益かをはっきりさせる)
感情の表出は前準備期の患者には大事なことであるが、治療者が患者にとって感情を表出できる相手になっているか?がとても重要なポイントである。
感情であるが故に、好きか嫌いかにとても左右される。
良く患者とのコミュニケーションがとれるか否かは、技術のみならず、治療者の資質に依存するところが多い。
行動期以降にある患者さんは適切な行動を取りっていますが、いつも後戻りを起こしやすいと考える必要があります。
患者さんは毎日の生活の中で必ず再発の誘惑と闘っていて、うまく出来たときの満足感で自己効力が増大します。
この時期の患者さんには
- セルフケアに必要な材料を揃える
- 行動を継続するのに障害(宴席の誘いなどの外的誘因が最も多い)となる事物についてその対処方法を話し合う
- 知識だけを与えない
- 行動期と安心しない
が必要です。